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〔焦点〕国債急落で初の一時取引停止、「VaRショック」再来の声も

[東京 25日 ロイター] 日米欧の中央銀行による協調利下げ観測が消え去るなか、国債相場の下落に歯止めがかからない不安定な状況が続いている。不測の事態に陥る前にリスク量を減らす管理手法「バリュー・アット・リスク(VaR)」に抵触した保有債券の売却が相次いだためとみられ、国債先物を上場している東京証券取引所は25日、一時取引を中断する措置に初めて踏み切った。市場では、2003年半ばに金利急騰を演出した「VaRショック」の再来を懸念する声が広がっている。


 25日の東京円債市場で国債利回りが軒並み急騰した。金融政策に敏感に反応する5年利付国債利回りが一時、前日比23ベーシスポイント高い1.280%に上昇、2年利付国債利回りは13bp高い0.850%をつけ、いずれも07年10月以来の6カ月間でもっとも高い金利水準となった。中短期債利回りの急騰につられ、長期金利の代表的な指標となる10年利付国債利回りは07年11月以来となる1.620%まで売られる場面があった。

 国債先物は、チャートポイントを重視する商品投資顧問業者(CTA)から売りが出たほか、短期売買を狙った参加者による損失覚悟の処分売りがみられ、一時前日終値より2円50銭安い134円58銭に急落。東京証券取引所によると、国債先物が1日の取引で2円以上下落したことは、これまでに例がない。東証は、大幅な相場変動下で冷静な投資判断を促す狙いで08年1月に導入した「サーキットブレーカー制度」を初めて発動。午後零時58分から午後1時13分までの15分間、取引を一時中断する異例の措置に踏み切った。


 相場急落のきっかけになったのは、大手行が満期保有目的の中期債を売却したことだ。サブプライムローン問題の深刻化による米景気減速をアジアや欧州などで補う「デカップリング論」が疑問視され始めた今年1月、主要国による協調利下げの可能性が急浮上する過程で、一部投資家は先々の日銀利下げを見越した債券投資に踏み切った。

 こうした保有債券は満期保有を前提に簿価計上するのが一般的とされる。売却しない限り、相場がブレても損益が確定することはない。それでも保有債券の売却に踏み切ったのは、VaRと呼ばれるリスク管理手法が影響した公算が大きいとみられる。

 これは、複数年にわたる市場データをベースに不測の事態が生じた場合のリスクを管理する手法だ。過去のボラティリティから想定された値幅を超えて価格が値下がりした場合、強制的にポジションを落とす仕組みになっている。

 みずほ証券・クオンツアナリストの海老原慎司氏は「24日までに推計した結果では、観測期間を過去5年間、信頼水準を95%としたとしたときのポートフォリオの収益率のVaRはマイナス0.50%と計測される。5%の確率で、1週間のうちにマイナス0.50%以上の損失が発生することが、過去5年間の5年債金利のデータから推測できる」と分析する。


 国債先物は日中引け値ベースで3月17日の高値(141円70銭、ザラ場は3月19日の141円91銭)を境に水準を切り下げ、24日引け値(137円08銭)との比較では、ほぼ1カ月で4円62銭下落していた。

 米連邦準備理事会(FRB)が29―30日に開催する連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを決めた後の「利下げ打ち止め」の可能性が高まっているうえ、一部で観測されていた欧州中央銀行(ECB)による利下げの可能性が低下。将来の政策金利を見通すオーバーナイト・インデックス・スワップ金利は、利下げ確率の織り込みから一転、日銀の利上げ確率を織り込んでいる。

 大和証券SMBC・チーフストラテジストの末澤豪謙氏は「世界的な質への逃避の巻き戻しを背景にした金利上昇が続いている。昨年来、債券先物相場で買い建てを構築した海外ファンド勢の処分売りが相場の振れを大きくしていた」と話した。

 日興シティグループ証券・チーフ債券ストラテジストの佐野一彦氏は「米金融危機の後退やインフレ懸念、日銀利下げ観測の修正を背景にした調整相場の過程で、セリングクライマックスの様相だ」と漏らす。


 主なヘッジ手段であるスワップ金利やユーロ円3カ月金利先物相場にも、影響が及んでいるフシがある。スワップ市場では、大手行からの払いが出て金利水準が軟化。一方、ユーロ円3カ月金利先物は中心限月や期先物が売り崩され、中心限月ベースで07年8月以来8カ月ぶりの安値を更新した。「23日夕に大口の海外ファンドによるポジション整理が一服したとの観測が浮上し、金先相場に明るい材料が出たばかりだっただけに暗雲が垂れ込めている」と、国内証券の担当者は指摘する。

 外資系金融機関のポートフォリオマネジャーは「2003年6月までの金利低下から一転、秋口にかけて金利が急騰したVaRショックに似ている」と話す。当時、債券価格が急速に目減りしたため、銀行勢を主体とするヘッジを目的としたスワップの払いが急増し、国債利回りの上昇を促したとされる。

 一部大口投資家の投資見送り観測がくすぶるなかで24日実施された2年利付国債(268回債、表面利率0.7%)の入札では、好不調の目安とされる最低落札価格と平均価格の差が1銭1厘にとどまったうえ、応札倍率が高かったことから「意外にも無難な結果」との評価が多かった。

 しかし、ある外資系証券の債券ディーラーは、落札業者の処分売りやヘッジを狙った取引が出ていることを例に挙げ、「スワップや金先相場の価格形成を歪めている」と指摘する。金融緩和期待を織り込んだ相場の揺り戻しが、新たなリスク要因として意識され始めている。